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福井ひかり法律事務所の弁護士によるコラムです。

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危険運転致死傷罪の弁護活動 憲法のバックグラウンドから

この度、私が主任弁護人を務め、三好弁護士とともに弁護活動を行った裁判員裁判事件(危険運転致死傷罪の成立が否定された事件)について事例報告記事を執筆し、『季刊刑事弁護111号』(現代人文社刊、令和4年7月20日発売)に掲載されましたので、概要を御紹介します。
 
1.事案の概要
この事件は、依頼人が、自動車を運転し、午前2時頃、パトカーによる追跡を受け、交通整理の行われていない交差点に時速約105キロメートルで直進進入したことにより、交差道路を進行していた自動車の側面に自車の前面を衝突させ、1名を死亡させ、1名に傷害を負わせたという事件でした。
 
2.主な争点
この事件の争点は、依頼人の運転行為が「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」第2条第2号に「危険運転致死傷罪」として定められている「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」と言えるかどうかでした。法律の解釈と事実の認定の両面で争点となりました。
 
3.私たちの主張
この事件で私たちが弁護人として主張したのは、大きくは次の2点でした。
 
【主張 )[Р鮗瓠
被告人の行為を危険運転致死傷罪という罪で処罰するためには、その行為を危険運転致死傷罪とする旨の法律の定めがなければならない(罪刑法定主義)。
被告人の行為を危険運転致死傷罪として処罰するためには、「一時停止規制又は徐行規制をことさらに無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」を危険運転致死傷罪とするとの法律の定めが必要だが、今現在そのような法律の定めはない。
被告人の今回の運転行為を危険運転致死傷罪とすることが社会正義にかなうのであれば、それは立法により実現されるべきことであって、罪刑法定主義という司法の大原則を曲げてはいけない。
 
【主張◆〇実認定】
「被告人は結果的に大きな事故を起こしているから、被告人の運転行為は危険な運転だった」というように、結果から行為を評価してはならず、行為そのものを評価しなければならない。たしかに、被告人は、パトカーからの逃走中に突如として急加速したが、様々な事実(詳細は伏せます。)を総合すると、自車の進行を制御できていた。
 
4.裁判所の判断
裁判所は、法律解釈の点でも事実の認定の点でも検察官の主張を退け、危険運転致死傷罪の成立を否定し、私たちの主張のとおり、より軽い罪である過失運転致死傷罪の成立にとどめました。
 
5.所感
本事例報告記事については、同じ『季刊刑事弁護111号』において、一橋大学の本庄武教授がコメントしてくださり、上記の主張,砲弔い董危険運転致死傷罪を考える上で一つの示唆となっているとの評価をしていただきました。
また、裁判官、検察官との勉強会においても、裁判官から、非常に説得力を感じたとのコメントをいただきました。
 
私が、この刑事裁判の中で、立法と司法の役割分担という切り口で主張を展開したのは、複数の大学で憲法を教えているからかもしれません。
私にとって憲法とは、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であるとともに、人類のあまたの失敗に対する反省の積み重ねであり、権力の分立などの仕組みにより国家による国民の人権侵害を防ぎ、国民の幸福を実現しようとする試みです。
司法が司法のルールを放棄することは、憲法の番人、すなわち立法や行政による人権侵害から国民を守る職責を与えられた司法が自らの存在意義を放棄すること、憲法の人権侵害防止の仕組みを否定することにほかならないと考えています。
こうした思いから、上記の主張,鯲論しました。
 
また、上記の主張△蓮◆崙庸,箸靴撞涓誕した」「結果的に重大な事故を起こした」という依頼人にとってマイナスになりえる事実について、それ以外の細かな事実関係を拾い、依頼者にとってプラスになる評価を加えたものです。自動車の走行状況についてこのような主張ができ、裁判所を説得できたのは、これまでに民事交通事故事件を数多く担当してきた経験が活きたと感じています。
 
今後も、自分の物の見方や経験などのバックグラウンドを大事にしつつ、地道に研鑽と思索を続け、より良い刑事弁護活動、民事紛争解決ができるよう精進し続けていく所存です。