コラム

福井ひかり法律事務所の弁護士によるコラムです。

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育成を通じて自らも成長する

2025年01月28日
昨年1月に当事務所に司法修習を終えたばかりの杉本和人弁護士が加入しました。
5年前に加入した三好大介弁護士はそれ以前に企業内弁護士(インハウスローヤー)としての勤務経験があったのですが、杉本弁護士は当事務所で働くことが社会人人生のスタートとなります。
 
私は、北川恒久先生や内上和博先生、青年会議所の先輩方から、社会人としての心構え、弁護士としての心の在り方を教えていただき、そのおかげで、今があります。
私は、今、自分が受けた恩を次世代の杉本弁護士に恩送りをする立場に立ちました。
 
私も、杉本弁護士に対し、私が先輩弁護士から指導していただいたことを伝承するとともに、自分自身の経験に基づき感じることなどを伝えてきました。その際、具体的な技術よりも、心の持ち方やものごとを見る視点を優先してきました。

弁護士の職業の目的は何か、プロフェッショナルとはなにか、どんな弁護士になりたいか、どんな人生を歩みたいかという心のありよう・人や社会を見る視点などは、普遍的なものだからです。「人生・仕事の結果=考え方(+100〜−100)×熱意(1〜100)×能力(1〜100)」と稲盛和夫さんがおっしゃるとおり、考え方次第で、いい結果も悪い結果も生じるからです。また、「誰かのためを思ってやることには無限の力がある」(青年会議所の先輩の言葉)からです。
 
技術については、大きな構想として、「守・破・離」すなわち、先ずは先達や上司のやり方をそのまま真似して型を身につけること、それをしないと型破りではなく形無しとなってしまうことは、繰り返し伝えてきました。これは、寺院の師僧方と青年会議所の先輩から教わったことです。
ただ、具体的な技術の中身や水準については、私のやり方は普遍的なものだろうか、という不安があります。
 
さらに、働き方については、私は、自他ともに認めるハードワーカーであり(方々から働き過ぎだと言われます)、私の労働時間は普通ではないと自覚しています。
 
そこで、一流の医師のドキュメンタリーを観たり、一流の法曹の書籍を読むことにしました。その中で特に感銘を受けた2つを御紹介します。
 
○「情熱大陸 三角和雄(心臓内科医・#1336)」
https://tver.jp/episodes/epxxds3jcr

三角医師が「量なくして質もない」と発言されていました。
私は「成長するためには仕事をするしかない」「一つひとつをやりきることでしか成長しない」「年に10回しか手術をしない医師の技術と年に300回手術をする医師の技術は比べ物にならない」と伝えていましたので、背中を押されました。
若手医師を育成することに対する情熱にも心を打たれました。
 
○『訴訟の技能 会社訴訟・知財訴訟の現場から』(2015年、商事法務)

この書籍は、門口正人弁護士(元裁判官)、末吉亙弁護士、中村直人弁護士という法曹の世界でその名を知らない人はいないであろう方々による共著です。書籍のテーマの一つが「若手法曹への技能の伝承」だったので、読んでみました。

これまで、門口裁判官と中村弁護士の書籍はいくつか読んできましたが、末吉弁護士著作を読んだことはありませんでした。東大ロースクール時代に末吉弁護士から知的財産法を教えてもらっておきながら、です。
 
いつもながら門口裁判官の著述部分からも中村弁護士の著述部分からも得るものが大きかったのですが、今回、若手弁護士に向けた「弁護士の心の在り方」のメッセージという点では、末吉弁護士の著述部分に大変感銘を受けました。以下、とりわけ心を打った部分を引用します(著作権法第32条1項の「批評」として)。
 
・ありがたいことに、師匠、仲間、顧客、案件、ライバル等に恵まれた環境の中で、「ウデを磨き、人を磨く」ことを心がけてきた(168頁)。
・ここでの「伝承」という言葉は、私としてはピンと来ていない。そもそも、師匠には、「盗め」と言われた。そして、これは「真似る」ことから始まる。つまり、デッドコピーである。駆け出しの頃、私は、咳払いまでコピーした(171頁)。
・毎日、とても多くの知財関連情報が発信されているので、体力勝負になる。(中略)以上によれば、かなりの高いレベルの知的財産弁護士がやるべきことが、最新判例を勉強することであることが分かる(173頁)。
・また、「親方の鮨を愛していること」が、大きな好奇心に繋がっている。裁判に勝つにも愛が必要だ。この紛争解決への愛があれば、「事前準備」と「好奇心」も大いに盛り上がるだろう(176頁)。
・数学の幾何の問題においては、補助線1つで解決がついたりするが(中略)紛争解決も幾何の問題と似ている。柔軟な発想は、問題解決を楽しむときに最大になるような気がする。(中略)打ち上げは重要だ。「あの打ち上げ」を楽しみに、多少の大変さは、乗り越えられる(194頁)。
・われわれ法律家や法律実務は、多くの理念に支えられている。この理念を学ぶために、われわれは、基礎法学や教養科目を学んできた(196頁)。

 
このほか、「『繊細にして、大胆』を心掛けている。」(181頁)という著述もありました。
私は、北川弁護士から「民暴弁護士は豪胆かつ緻密やぞ」と御指導いただいていたことから、末吉弁護士のこのフレーズは非常に感慨深いものがありました。
 
後進の育成とともに、自らもより一層成長すべく、引き続き努力を続けていきたいと思います。